書きたいが書けるに変わる創作講座 受講生対談vol.3 | スタートアップカフェ大阪

書店ゲーム

2025.04.27

書きたいが書けるに変わる創作講座 受講生対談vol.3

メーカー勤務/空手指導者 野間 研汰さん×関西大学文学部 2回生 塩川 小春さん

書きながら、考えながら生きることで、これまでとは違った人生に。

 

スタートアップカフェ大阪が実施する起業プロジェクト「書店ゲーム」。書店をゲームのように楽しむ企画の一環として、シェア型書店の運営や、出版講座『書きたいが書けるに変わる創作講座』を開催しています。『書きたいが書けるに変わる創作講座』は、短編小説へエッセイ、ノンフィクションの書き方をプロの編集者に学び、自分で作った作品を、自分で売ることのできる出版講座です。「書きたい」という想いを持ったさまざまな人が集い、現役編集者の大槻慎二先生の下、小説やエッセイの書き方を学んでいます。そんな講座も気づけばあと1回を残すのみ。4月のスタートから1年が経ち、書き上げた作品がTSUTAYA BOOKSTORE 梅田 MeRISEの店頭に並んでいます。

第三回のインタビューでは、メーカー勤務の会社員で、空手指導者でもある野間研汰さんと、関西大学文学部2回生の塩川小春さんの対談を実施。講座を受けたきっかけから、通ってみて感じたこと、自分自身に起きた変化まで、自由に語り合っていただきました。

聞き手・構成/ぶんたま(笹間聖子)

 

「人を導く文章を書くために、まず自分を掘り下げる」

 

―まずは、おふたりが講座に参加されたきっかけを教えてください。

 

野間/最初は自己啓発本を書こうと思ったんです。空手を通じて学んだことをいつかはまとめたいなと思っていて、そのきっかけになればと思ってきました。でも、自己啓発本って人を導く本じゃないですか。そこにどうにも違和感を覚えて、人を導く文章を書くためには、まず自分自身を掘り下げて書かないと解決できないんじゃないかなと。それでエッセイに切り替えたのですが、書き始めたら私小説になってしまいました。

 

塩川/私が参加したきっかけは、コーディネーターである三砂さんが関西大学で開催した、ブックカバーを作るワークショップです。そこにすでに受講していた野崎亮太くん、上田啓太くんがいて、創作講座の存在を知りました。元々本が好きで、「なにか書きたいな」と思って題名を考えたりはしていたんです。でも、その日まで全く書けずにいたので、「書く機会を得られる」と思って途中参加させてもらいました。

 

「自分を出して、評価されるのが怖かった」

―受講されるなかで、印象に残ったことはありますか。

 

野間/1作目の『阪急電車』という作品のなかに、場面が切り替わるところがあるんです。「その間に1行入れたほうが展開がスムーズですよ」と大槻先生にアドバイスをいただいたのですが、それが思い浮かばなくて……。先生が、「もし編集者にそう言われたら、期待を大きく上回れる文章を書けたら本物の作家です」とおっしゃったこともあり、3日悩みました。自分の中にいる「子どもの自分」に帰り、本音を切り出して、やっと書けました。

 

塩川/どんな1行だったんですか。

 

野間/「母に対して、小学2、3年の頃から妙な息苦しさを感じるようになった」という意味合いの言葉です。再提出したところ、「これはいいね」と褒めていただいて、「言葉は取り繕って貼り付けるのではなく、自分の内側に探しに行くんだ」と学びましたね。

 

塩川/私は反対で、1作目を再提出した際に、「前のほうが良かった。うまく書こうとして文章が硬くなっている」と指摘されてしまいました。落ち込みましたね。途中参加だったので、「がんばって追いつかなきゃ」と気負っていたし、関西大学のキャンパスで作品を売る話も聞いていたので、友達の目も気にしてしまっていたんです。そもそも評価されるのが苦手なタイプで、自分を出すのが怖かったんだと思います。

 

野間/書くことは、自分を見られることだもんね。辛いところもあるよね。

 

塩川/そうなんです。でも、そんな自分に気がついて、自信はなくても「自分を出して書いて、読んでもらう」経験をもっとしなければいけないなって。打たれ弱い性格を乗り越えなきゃいけないと思いました。それでもう1回読み直して、文章に角があると感じたり、読みにくいと感じたところを書き直したら、「良くなったね」と。もうホッとしました。

「難しい言葉を使っていても、シーンが想像できる」

―講座では、野間さんは私小説を3作、塩川さんは小説を2作品書かれています。お互いの作品についての感想を教えてください。

 

野間/塩川さんの『電車がホームで止まるとき』という小説は、読んでいてすごく情景が浮かびました。難しい言葉や奇をてらうような表現がなく、平易な言葉で書かれているのに、心理状態がよく分かる。さきほどのお話にあった、「自分を出す」効果が出たんじゃないでしょうか。

 

塩川/うれしいです。私は逆に野間さんの作品のなかに、自分が普段使わないような語彙をみつけて、すごいなと感じました。

 

野間/どうしても言い回しを考えてしまうところがあるんです。簡単な言葉でも表現できるんでしょうけど、なるべく短い言葉で言おうと漢字を使ってしまったり……。ある意味、それが自分のスタイルなのかもしれません。

 

塩川/野間さんの『阪急電車』は難しい言葉を使っていても、シーンが想像できました。その言葉が最適なんだなというのが、読んでいて分かったんです。そんな言葉を探してこられるのがすごいなと思います。それから、お父さんとお母さんのやさしい部分とそうではない部分、両方描かれていたので、人物が立体的に浮かび上がってくる感じがしました。自分自身のことも正直に書かれていて、さすが第一回「TSUTAYA BOOKSTORE 梅田 MeRISE店長賞」に選ばれた作品だなと。

 

野間/いやいや。店長賞は過分な評価で恐縮しました。ですが、励みになりましたね。僕は『電車がホームで止まるとき』で主人公の渚が乗っている電車が人身事故に合い、心が揺れ動いている描写に感心しました。人が死んでいるのに、電車が止まって大学に行かずに済むことに喜ぶ罪悪感。その一方で、命の重さも考えている描写……。座席を立つ直前、突然「嫌だ」と短い言葉を発しますよね。それが直感的に発せられる、テンポの良さにも驚きました。

 

塩川/ありがとうございます。

 

野間/聞いてみたかったのですが、最後のシーンで渚がスマホで乗換案内を検索しますよね。あそこは、「死んだ人が気の毒、かわいそう」という心理はあるけれど、次の行動をとっているということは、「それを引きずらないで、強く生きていく」という逞しさを表現したんですか? 僕はそういうラストだと受け止めたんですが、考えすぎ?

 

塩川/電車のドアが開いてホームに降りた後に、渚が大学に向かうのか、家に帰るのか、近くのカフェに入るのか。そこは自分でも決めないで書きました。でもそんなふうに読んでいただけて面白いです。

 

「朝4時半に起きて、通勤電車のなかでも」

―野間さんは仕事をしながら、塩川さんは大学に通いながら、作品を書いてみていかがでしたか。

 

野間/なるべく土日に書き溜めしてたんですけど、それだけだと「言葉の神」が降りてこなくて困りました。それで、毎朝4時半に起きて、30分から1時間は書くようにしたんです。通勤電車のなかでもスマホで続きを書き、とにかく毎日短時間でも書いていたら、不思議といいフレーズが浮かぶことに気がつきました。おそらく、ずっと作品について考えていたからだと思います。

 

塩川/すごい。私は1作目はプロットがふわっとしていたので、どういう方向に物語を進めていいか、かなり悩みました。全然書けなくて、締め切り前に夜中に書いて翌朝起きれなかったり、土曜の授業を休んで書いたこともありました。バイトもサークルも、いろいろ手を出してしまう性格なので、もうパツパツでした。

 

野間/2作目はスムーズに書けたんですか。

 

塩川/いえ、プロットは固めていたのですが、ニュース記事を途中で挿入しなければならなかったり、1作目とはまた違う難しさがあって。困ったときに、一緒に受講していた野崎くんが文芸部に入っていることを思い出したんです。それで、「文芸部に今だけ寄せてもらえへん?」と頼んで、放課後、野崎くんにアドバイスをもらいながら文芸部の部室で書かせてもらいました。「部室に行ったら書くぞ」と、無理やりスイッチを入れていました(笑)。

 

「人によって、見方や評価は違うもの」

―受講生には、大学生から80代の児童文学作家さんまで幅広い方がいらっしゃいました。みなさんとの関わりは刺激になりましたか?

 

野間/受講生の数人から、「描写力がいい。景色が目に浮かぶ」と褒めていただいたり、「ここはお母さんがかわいそうすぎる」とアドバイスをいただく機会がありました。それを反映していくことで、力がついた部分はあると思います。それから、受講生以外の方にも下読みをお願いして、違和感を感じたところを教えてもらって修正をしていました。周囲にはかなり助けられましたね。

 

塩川/私もです。私もさきほどお話した、「前のほうが良かった」と言われて落ち込んだときに、野崎くんに褒めてもらったんです。そこに救われたので、先生の意見はもちろん大切ですが、「人によって見方や評価は違う。いろいろな人の意見を聞くのは大事だな」と考えるようになりました。同じく受講生の前川正基さんともInstagramとnoteでつながっているんですが、いつも「読んでるよ」と言ってくださるので励みになります。

 

―貴重な仲間ですね。創作講座を受講して、変化はありましたか。

 

野間/大げさかもしれませんが、人生が変わりつつあります。ベストセラー作家になろうとかいうのではありませんが、書き続けることで、自分自身にしっかり向き合えるようになったんです。文章を書くことは、「人生の解」へたどり着くための旅路ではないかと感じています。書くことで、悩みや不安、日々浮かぶ疑問やモヤモヤを考えることができますから。

 

塩川/ああ、分かります。私は創作講座がきっかけで、今noteをほぼ毎日書いているんです。自分の今までのこと、その日1日のこと、恋愛、大学のことなどを雑多に書いていくと、思ってもみなかった発見がよくあります。自己分析というか、自己理解が深まる感じがありますね。

 

野間/「人生の解」へたどり着いたからと言って、すぐに悩みが解決、とはならないんでしょうけど(笑)。何も考えないでいるよりも、書きながら、考えながら生きることで、これまでとは違った人生になるんじゃないかなと。今58歳ですが、残りの人生は何事も曖昧に流さず、「なぜだろう」と立ち止まって生きていきたい。それから今、中編の小説も書いています。私小説はネタが尽きてしまったので、フィクションに挑戦しているんです。

 

塩川/完成したらぜひ読ませてください。私も何らかの賞に応募する作品に挑戦していきたいです。

 

 

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