【イベントレポート】スタートアップにとっての良いアイデアとは? 株式会社ブイクック:工藤柊 | スタートアップカフェ大阪

イベントレポート

2024.12.14

工藤柊

【イベントレポート】スタートアップにとっての良いアイデアとは? 株式会社ブイクック:工藤柊

HYOUGE NIGHT(ひょうげないと)とは?

自分が感じた違和感をそのままにしない。内なるささやきに耳をかたむけ、他人からの評価よりも自分の価値観や美意識を大事にした生き方・働き方をしている人がいる。

江戸時代の武将であり、茶人の古田織部がそうであったように、こういう人をわたしたちは、“ひょうげ-もの(おもしろい-人)”と呼んでいます。

本イベントシリーズではそのような方をゲストに迎え、なぜその選択をしたのか、どうやって実現してきたのかなど、具体的なエピソードを聴きながら、参加者と交流しながら進めるイベントです。

今回のイベントでは元スタートアップカフェ大阪の コミュニケーターであり、『Forbes JAPAN』の「今注目すべき「世界を救う希望」100人」に選ばれた、ヴィーガンスタートアップの新旗手、株式会社ブイクック 代表取締役の工藤柊氏をお招きします。

株式会社ブイクックとは?

工藤氏
“HELLO VEGAN”な社会をつくることをミッションに、誰でもヴィーガンという選択肢を選べる世界を目指しているヴィーガンスタートアップ企業です。

元々自身が代表理事を務めるNPO法人「日本ヴィーガンコミュニティ」で開発・運用していたヴィーガン向けレシピ投稿サイト「ブイクック」のサービスをより成長させるために株式会社化して運営していくことに決めて始まった会社になります。

ブイクックをはじめとし「ブイクックスーパー」というヴィーガン向けのオンラインECモールの運営や、最近はオフラインでインバウンド事業に進出しまして、渋谷で外国人旅行客向けのヴィーガン寿司屋(vegan sushi tokyo)を経営しています。

株式会社ブイクック コーポレートサイト

インサイトから始めよ

建物から出よ


金子
「建物から出よ」とはどういう意味になるんでしょうか?

工藤氏
こちらは起業家であるスティーブ・ブランク氏の言葉です。

オフィスでPCに映るデータと睨めっこしたり、頭の中で考えたりせずに、顧客と対話しマーケットの解像度を高めることが一番重要なので、とにかく外に出て市場に飛び込もうという考え方です。

金子
なるほど。机上の空論ではなく、まさに実際のインサイトを確認することが大事ということですね。
起業初期だとこの調査。いわゆる市場調査の仕方がわからないという相談者の方が普段スタカフェの相談に来られることもあるのですが、工藤さん。ブイクックの場合は具体的にはどのように調査を進めたのでしょうか?

工藤氏
メンバーだけでなくもちろん僕自身も夜の渋谷の飲み屋に繰り出しては隣に座っている外国人旅行客に話しかけてましたね。

平日のお昼時も毎日「チャンスタイム」だと思って、みんなでオフィスを出て、旅行者の方々に日本を旅行する上でどういうことに困っているのか。どんな工程で日本国内を旅行予定なのかなどをずっと聞いて回っていました。

セルフチェック

金子
続いてこちらの「ヘルスチェック」の項目として

  • ターゲット・ペルソナは誰か
  • 取り組む課題は誰が持っていたか
  • ターゲットは課題に対してどう代替していたのか

と3つ挙げてくださっていましたね。

ビジネスモデルの中でもターゲットをどう定めるのか?という考え方についてはスタートアップカフェ大阪に相談に来られる方々も悩んでいる傾向にあるので、具体的にどのようにしてこれらの項目をクリアしていったのかというお話を伺えると嬉しいです。

工藤氏
そうですね。スタートアップで事業を創る際にぶつかる壁として、ヘルスチェックに挙げているこれらの3点を、サービスを創るチームが共通の理解を持てているのかどうか?というものが存在すると自身の経験をもとに実感しています。

1年くらい前の新規事業(インバウンド旅行客向けヴィーガン寿司屋)を考える際に、ターゲットユーザーに対しての理解がメンバーそれぞれで異なっていたり、そもそもターゲットとなるユーザーペルソナを具体的に回答できなかったりと、サービスを創る上で実際に利用してくださるユーザーの共通の像がないというのはちょっとまずいなと思った時期がありました。

具体的に何がどうまずいかというと、時間も資金も限られている中でユーザーに対する仮説もまともに作れない状況で一か八かのチャレンジをするのはあまりにも得られるものが少ない気がするなと当時も感じまして…。

なので会社のバリュー(行動指針)に「インサイトから始めよ」を新たに追加して、自社がターゲットとしているユーザーに対するチーム全員の共通理解を具体的には経営合宿などを通じてコミュニケーション量を増やし、1年ほどかけてやっと浸透したという手応えがありました。

この進め方は今回の新規事業であるヴィーガン寿司屋に限った話ではなく、ブイクック(ヴィーガン向けレシピ投稿サイト)でも同じ系譜を辿っていました。

ブイクックをつくる際にもNPO法人を創るという名目もありましたが、ヴィーガンの人に会いに日本一周をしながらお話を聞いて回った経験がかなりサービス運営に生きたなと振り返ってみて思います。

自分の課題から始める・アイデアに固執しない


金子
続いて「自分の課題から始める・アイデアに固執しない」というセクションですね。
工藤さんの場合はまさにご自身がヴィーガンで「ブイクック」のようなサービスが無い中だと、どのようなヴィーガン料理が家庭で楽しめるのかわからずに苦労したという経験があってのことだと思うので、参考としてはすごく分かりやすいですね。

実は自身がどういう課題を抱えているのか?という問いの深堀方については、時間も限られていますのでまた別の機会に伺いたいと思うのですが、本日は後者の「アイデアに固執しない」という点について工藤さんの実際の経験をお聞かせいただきたいです。

今回新しく始められたヴィーガン寿司の事業以前にも「ブイクックデリ」というヴィーガン向けのお惣菜定期宅配サービスに挑戦されていたかと思うのですが、先のセクションであるインサイトのお話に加えて、事業をピボットする際に悩んだことや、どのような理由が判断の鍵になったのかをお話しいただきたいです。

工藤氏
簡単にいうと初期のアイデアに固執し過ぎないということですね。ここはすごく意識しています。

大前提として「誰もがヴィーガン」を選択できる社会を作る」というのをコンセプトに、そもそも私たちの会社が存在しているので、最初に考えたアイデアだったり、自分が気に入ったアイデアだったりを優先するのではなく、先に述べた目的に対してより大きく成長できる選択肢を選ぶべきだと考えています。

特にスタートアップで資金調達をしてやっているということで、時間と残された資金に加えて時代の流れも踏まえた上で
いかにして急成長できるのかというのも基準としては大きいです。

私の場合はこうだったという話ではあったので、結局のところどういう状態を実現したいのか?というところに応じて選び方も変わってくるのかなと思っています。

なので、例えばスタートアップではなく、スモールビジネスなどで実現したい状態に対して続けることが最も効果的という判断を下すのであれば、今既に取り組んでいる事業に固執するのも正解だと思います。

それは「隠れた真実」か?

隠れた真実を信じろ!!


工藤氏
「隠れた真実」とは「重要だが知られていない事実」もしくは「実現可能だが実現不可能と思われている事実」を指していまして、『ZERO to ONE』という本を書かれているピーター・ティールさんの言葉を参照されていますね。

金子
こちらはアイデアといいますか、市場選定の上での深掘り方といったような切り口の話になるのかなって思うんですけど、例えば工藤さんがヴィーガン寿司屋を始めた際を例にこちらの解説をお聞かせいただいてもよろしいですか?

工藤氏
はい。例えば今だと街を歩いていてもネットニュースを見ていても何となくインバウンド(旅行客)増えてるよなって皆さんも感じたことあるかと思います。

ではそこで「じゃあインバウンドの事業をしよう!」となると、簡単に言えばみんな考えついてしまうことなので簡単に飽和もしてしまいますし、今は居なかったとしても競合が後から出てきて結果的に同じ事業で競合と戦うだけになってしまうと思うんです。

かといって成長市場を選ぶのが良くないと言う話ではなくて、要はその中でも他の事業者が踏み込んでいない市場の課題を深掘りして探すというのが大事だと考えています。

この「隠れた真実」を自分たちなりに見つけたとしても、隠れているが故にすごく批判されるといいますか、全然ピンときていないといったリアクションをもらうことが多いんです。実際に僕もヴィーガン寿司屋に関しては「インバウンドだったらリピーターが来ない」だったり、「今までのWebの事業に比べて初期費用も運用コストもかかる」だったりと株主含めて反対意見が多かったのを覚えています。

そういった意見はあったもののユーザーインタビューやヒアリングを続けていく中で、実は日本という国自体に何度も来る旅行客が多いという事実があるなど「実はこう」という発見による自信がありました。

この「実は」の発見まで深掘りが至っていないと、尖ったアイデアに対してはマイナスな意見が飛んでくることが多く、実際に今回も自分の意見を貫き通さなかったらヴィーガン寿司屋は実現しなかった訳なので「自分の主張を信じる」というのは大事だと。

金子
ありがとうございます。この自分の意見を信じるに至る発見(隠れた真実)の重要性が、まさに次のセクションのお話になりますね。

みんなが「良さそう」と思うアイデアを避ける


金子
先ほどのセクションの話をまとめさせていただくと、要するにみんなが「良さそう」と思うアイデアについてはみんなやってしまうので、仮に現段階で競合が居なかったとしても後から出てきてしまい疲弊するという罠があるということですね。

工藤氏
そうですね。私たちはスタートアップなので、そういった消耗戦に持ち込まれると厳しいと思いますね。

例えば一昔前にタピオカがブームとして流行ったまさにそのタイミングで「タピオカ屋さんをやろう!」となると、資金力も人的な意味でもリソース的な意味でも多くを有している大きい企業と同じ競争をして、何もかもが限られたスタートアップが戦うのは難しいように思います。

金子
こういった状況を避けるための話として、次のセクションの「局地戦で戦う」というポイントがあるんですね。

工藤氏
まさにそうですね。

局地選で戦う


工藤氏
「食」というカテゴリーで見たときに「ヴィーガン」というのはかなりの局地戦なのかなとは自分でも思います。

海外からの旅行客のうち、少し前まででもベジタリアンは全体の5%程度で、今ではもっと少ない割合です。

だから5%を無視して大きい市場である残りの95%以上が食べられる食のインバウンドサービスを提供しようとなると、先ほどのセクションの通りの話となってしまい、特に食の場合は他の食品・お店でも全然代替が効いてしまうんです。

私たちはスタートアップであるからこそ、99.9%はユーザーになり得ないけど、0.01%の人達が劇的に求めるものを創るべきだと思っています。

大きな波に乗る

大きな波とは

工藤氏
「大きな波」とはつまり「成長市場」のことなんですけど、私が取り組んでいるヴィーガンという市場は世界的に見たら市場は大きくはなっていると思うのですが、国内で見たらまだまだ0.02%とかなんですよね。増えてきてはいるんですけど
成長は緩やかではあります。

つまり国内のターゲットだけでは急成長は難しいということですね。それでも普通にスモールビジネスとしてやっていく分には全然事業を継続できる規模だとは思うんですけど、やはりスタートアップとして事業を伸ばして「誰もがヴィーガンを選択できる世の中を作る」という理想を実現するには、成長市場に接続してより大きな波に乗る必要があるということですね。

波が立っていないところに波を生み出すのって、これから事業を始めるというフェーズではかなり難しくて、仮に出資を1億円受けていたとしても、大企業だと案外すぐに出せてしまう金額ではあるのでどのみち戦いにならないかなって思っています。

なので、自分たちで波を起こしたり、小さい波の中だけで戦ったりするのではなく、既にある大き波の上でプロダクトを作って資金やリソースを貯めるというアクションは過程として必須だなと考えています。

金子
今回工藤さんが挑戦しているヴィーガンxインバウンドの取り組みはスタートアップの取り組み方としてなんといいますか美しいですよね。

インバウンドという大きな波にも乗っているのは確かなのですが、これまでヴィーガン向けの食のインフラが整っていなかったという理由で日本に来れていなかったユーザーも来れるようにするというものなので、ただ波に乗っているだけでなくその波をさらに大きくするインパクトがあるスタートアップらしいチャレンジの仕方だなって思っていました。

10年後の当たり前から考える


工藤氏
ここ十数年で大成したfacebookやAirbnbなどのサービスも、かつては想像もされていなかったようなサービスで、技術の発展に伴い常識化してきた傾向があるように、私はヴィーガンという価値観が今後十数年の時間をかけて浸透していくと思っています。

それは環境問題の観点でフードロスに次ぐ考え方が植物性由来の食品中心の生活に移行していくといったような感じですね。

必要に駆られてという場合もあるかもしれませんが私はヴィーガン食品の研究などが進んで、人口の増加も伴って供給量的に肉が高級食品となったときに、必然的に大豆で作った代替肉が今よりもより肉っぽくかつ安いみたいな状態で、それなら大豆ミートを買うみたいな。今でいうところの蟹は高くて買えないけどカニカマなら気軽に買えるという感覚がより浸透するという風に考えています。

現段階でもSDGsという考え方が広がって、海外では「肉に税金を乗せるのはどうか」みたいな話がリアルに行われているような状態ではあるので、公な場では極力ヴィーガン食にしよう。などという切り口でも需要は広がっていくだろうなどと、さまざまな観点があります。

そういった形で10年後の未来を予想したときに、じゃあその時に業界の中でどういうポジションをとっておくべきだろうなだったり、どういう状態だったらその価値観が普及した際に自分たちの理想の状態を作れるかなと考えたりした時に今はコレに対して頑張ろう。といったような逆算をしていくことが大切だと思いますね。

習慣の延長線上にプロダクトを置く


金子
先ほどのセクションに対してこちらは未来からの逆算という順序ではなくて、今から未来にかけての系譜という視点での話ですね。

工藤氏
はい。この視点の話で考えるの面白いと思ってるんですよね。

例えばiPhoneなどのスマートフォンにも入力の方法としてガラケーのキーボードが継承されてますよね。あれっていきなり音声入力だったりその他の入力方法もあったかもしれないですけど、10数年前のiPhone発売当時にいきなりそんなことをやってもユーザーが扱えなくて流行らなかったと思うんですよね。

要するに世の中のリテラシーが高まっていく速度というものも観測して、市場のペースに合わせてサービスを少し少し成長させていくという歩幅が大切だという考えです。

ヴィーガンの食材もあえて「肉」とか「魚」みたいな既にイメージとして持っているものを模倣して馴染んでいるものから流通させていかないとユーザーが理解できないと思います。

いきなり「ヴィーガン」で「食べられるもの」だからと言ってまだこの世に存在しない全く新しい食品として世の中に出したとしても、調理方法も美味しい食べ方も何も予測できませんからね。

10倍良いものをつくる

小さな違いを追いかけず、大胆にかける


工藤氏
10xなんかでよく言われる話ではあるかと思いますが、例えばAmazonなんかも最初は本屋さんで「既存の本屋さんよりも10倍本が揃えてあって、サイト行けば確実に欲しい本があるのが強み」だったり、PayPalの場合は「従来の小切手送付よりも10倍早い」だったりと、特別突き抜けることの強さという話ですね。

ちょっと良いくらいだと「じゃあ今までのでも良いじゃん」となってしまうので、10枚良いものを作って「絶対にこっちの方がいいじゃん」と言わせるようなものを提供しないといけないんですね。

競合サービスがあるのは悪いことではない


金子
続いてこちらの競合サービスがあるのは悪いことではないというセクションについてになりますが、こちらの工藤さんの考えをお聞かせ願いたいです。

工藤氏
先のセクションであった、大きな波に対して大企業も取り組んでいるようなアプローチで競合が存在するという場合だと話は変わってきてしまうので、あくまでもコレまでの各セクションを踏襲した結果のアプローチという前提でお話しします。

競合、というより自分が挑戦しているニッチな市場に対して複数の類似サービスがあるということは、裏を返せば「他の事業者もその市場に何かしらの理由で可能性を感じている」ことの証明であると同時に「でもまだ1つに絞られていない」という状況だということです。

簡単に言ってしまいますが、市場に分散して存在する類似サービスの足りない部分を見つけて、そこに集中して10倍良いものを創って提供ができれば生き残れるという考えですね。

工藤氏にとってスタートアップカフェ大阪はどんな場所?


金子
最後になるのですが、工藤さんにとってスタートアップカフェ大阪はどんな場所なのかというお話を起業する前・起業して事業を開始した後も含めて伺いたいです。

私も含めての話にはなってしまうのですが、スタートアップカフェ大阪を通じて出会えた事業者の方、起業家の方と継続してお付き合いさせていただいているケースも少なくなくて、そういった機会に恵まれた場所であってか本日もご来場いただいている方々も知り合いの方が見受けられています。

コーディネーターとしても、コレから起業する方も含めてみんなで盛り上がり、より良い場所になってほしいな思っているので参考にさせていただきたいです。

工藤氏
やっぱり「無料」というのが一番大きいような気がしますね。起業初期って資金面で余裕がないことが多いので、無料で利用できるのはすごく助かります。それに、弁護士・司法書士の先生ともつながれるし、政策金融公庫の方にも相談ができるんですよ。これってすごいことだと思います。

金子
そうですよね。相談の回数制限も無いので、何度でも無料で相談できるのが良い点だと僕も思います。例えば、相談者の方の中には案件が取れた時に「これ、どう進めればいいですか?」って相談に来られる場合もあるので、創業の瞬間に限らずわからないことに遭遇した際にラフに相談に来れるというのがとても優しい場所だと思います。

工藤氏
あと、起業を目指している人や既に起業している人同士でのコミュニティができるのも魅力的ですね。

僕もスタートアップカフェを通じて知り合った先輩がたくさんいて、今でも繋がりがあります。実際、コーディネーターをしていた先輩に今でも相談に乗ってもらっています。

金子
そうですね。数年前から僕も工藤さんもお世話になっていますが、今でもこうして企画をさせていただけるのもありがたいです。コレからも一緒にこのスタカフェというコミュニティに貢献していきたいと僕自身も思っておりますので、工藤さんをはじめ、ご来場の皆さんも引き続き何卒よろしくお願いいたします。

以上、工藤さんをお招きしたHYOUGE NIGHT「スタートアップにとっての良いアイデアとは?」でした。

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